支援物資はなぜうまく配れないのか~平等避難所・公平避難所選択ゲーム~

  • 相馬高校理数科では総合学習の時間に課題研究を行っています。私はゲーム理論班をつくり、東大の経済学者松井彰彦先生の本「高校生からのゲーム理論」で勉強を始めたのですが、その時期に大震災が起こり勉強を一時中断しました。課題研究を再開するとき、私たちの興味は避難所で起こった「支援物資の数が避難者の数より1個でも少ないと平等性が損なわれる」という理由で「支援物資が配られないまま」になるという事象に移っていました。
  • うまく配る方法はないのだろうか?そもそも「平等」とは?「公平」とは?
  • 私たちは平等の意味、公平の意味を考えるところから出発し、私たちなりにその意味を定義し、表題のようなゲームを考えてみました。
  • このゲームの肝は、避難者が自分の意志で選択できるというところです。
  • ゲームのルールは次の通りです。
  1. 避難者n人が避難時に持っている持ち物の量をポイントで表す。避難者が持っているポイントは全員が異なるとする。避難者はお互いの持ちポイントを知ることはできない。
  2. 平等避難所と公平避難所がある。
  3. 平等避難所:この避難所では全員に等しくkポイント(物資)が配られる。公平避難所:この避難所では持ってきたポイントが少ない人には多くのポイントを配り、配り終わったときに避難者のポイントが同じになるように配る。ただし、この避難所も配られるポイントは一人あたり平均kポイントである。
  4. ただし、k>(避難者の持ちポイントの最大値-避難者の持ちポイントの最小値)/2としておく。
  5. 避難者は自分のポイントを増やすのに有利であると思われる避難所を選択する。
  6. 避難者は選択した避難所でポイントを受け取る。このポイントは消費され、また初期の状態に戻る。
  7. 再び、避難者に避難所を選択させる。
  8. これを繰り返していく。避難所を変える避難者がいない状態(均衡)になったら終了となる。

 

 【考察】

1 避難者全員が合理的に判断をしていけば、最終的には最小ポイントの避難者だけが公平避難所に残り、残りは全員が平等避難所を選択する。つまり、事実上、公平避難所も平等避難所化し廃止に追い込まれる。

2 しかし、合理的判断をしない避難者が存在すると、公平避難所に残る人が2人以上存在したまま安定化する。ポイントをより多く持っている人が合理的判断をせずに公平避難所にいれば、より多くの人が公平避難所に残ることになる。

3 このゲームは、避難者に平等と公平を選択させても、最終的には平等化の方に収束していくことの1つの例であり、支援物資の公平な分配が容易には実現できないことを示唆している。

灘高の生徒に「平等避難所・公平避難所選択ゲーム」をやってもらいました。

 8月17日から19日まで、9人の生徒を引率して灘高を訪問しました。灘高生が3月と8月初旬に本校を訪問してくれたので、今度は本校生が行く番ということで訪問させていただきました。生徒の旅費については、灘高のOBの方々や本校を支援して下さる方々にご寄附をいただき、今回の訪問が実現しました。

 交流プログラムの最初として、本校の生徒が教師役となり灘高生を相手に、3時間通しの実験授業を行いました。

 まず、最初に「避難者数よりも少ない支援物資が届いたとき、避難所の管理者のあなたは物資を配りますか」と問い、100人の避難者に対して「1個だけ足りないとき」「10個足りないとき」「50個足りないとき」「90個足りないとき」「99個足りないとき」という想定で、その都度配る派と配らない派に分かれてもらい、その理由を聞きました。

 次に、「平等」と「公平」の意味の違いについて問い、平等から連想するイメージ、公平から連想するイメージを思いつくまま書いてもらいました。

 この後に、避難所選択ゲームに参加してもらいました。ゲームは大変盛り上がり、灘高生から「これ、本当に楽しい」との声が聞こえました。灘高生はゲームに参加しながら、活発に議論をしていました。14回目に公平避難所が1人だけになり、15回目に移動がなく均衡が訪れ、ゲーム終了となりました。

 灘高と相馬高校の交流の始まりとして、大成功だったと思います。